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  さくら
「好きな奴いるのか」

って聞かれて黙って首を横に振った。
コイツがこんなハナシをフッてくるなんてまるで予想外で、俺はかなり驚いたけど。
サイファー。
あんたの次の台詞には、ひっくり返りそうになるほどたまげさせてもらった。

「じゃあ、オレを試せよ」
「・・・は?」
「オレは試験がスキなんだ」

何が「じゃあ」?!
新手の嫌がらせか?
馬鹿にすんのも大概にしろ。
いけ好かねえ野郎だ。
どこもかしこも俺よりデカい上、今までまともに名前を呼んでもらったことすら無い。
俺はいつもそうするように犬歯を剥いてくってかかった。

「わりーけどな、俺は試験なんかでぇっきれーなんだよ!んな笑えねえ冗談に付き合ってるヒマねえし!!」

てっきり胸倉でも捕まえられるかと身構えてた。
なのに。
サイファーはぐいと身を屈めて、俺との顔の距離をデコがくっつきそうになるほどに狭めて嬉しそうに言ったのだ。

「ならハナシが早え。真剣に、クソ真面目なオツキアイしようぜ?」

呆気に取られた。
ツッコむタイミング逃した。
んなサワヤカな笑顔は見たこと無くて、一瞬息が止まっちまったのだ。
細められた翡翠の目が、あんまり綺麗で優しかったから。
だけど言ってる事は無茶苦茶だ。

「オレはおまえに惚れてんだ。そういう事だからよろしく頼むな」
「・・・・・・・へぇ?」

つい間抜けな声が出ちまったのも無理はねえ。
開いた口が塞がらねえとは正にこのことだ。
こいつ、どっかおかしくなっちまった?
魔女に操られてた後遺症か?
それか平気な顔してすげー熱あったりして。有り得る。

「・・・あんた、ダイジョーブかよ?」

ちょっとマジで心配になって、そのカタチのいい額に手を当ててみた俺だった。







ぜってーに、こんなお遊びにはすぐ飽きんだろうと思ってた。
それなのに!
ああ、まったく馬鹿げてる!
まさかこんなジタイになるとは想像だにしてなくて。
こめかみが引き攣る。胃のあたりがムカムカする。
わかってんのか?
あんたの所為だろ?
あんたがあんなこと言わなけりゃ、俺はこうして、こんな憤死しそーな醜態を晒さないで済んだってのに!



「・・・んだよゼル、何が気に入らねえんだ」
「・・・・・・」

もう何度目だ。
俺は歯軋りとともに言葉にならない声を呑み込んだ。
興味深げに俺の顔を覗き込む、金髪碧眼のイイ男。
その微妙にニヤついた顔が気に障る。
しかしふざけた装飾をとっぱらえば、こいつの俺に対する態度はいつも”誠実”そのものなのだ。
だから余計に、俺が困る。

「ヒトが祝ってやろうってのにご機嫌ナナメかよ?」

低く転がるような甘い声は俺の為にしか使わないのを知っている。
少し困ったフリで持ち上がった眉頭を、如何にも男らしく無骨な指が掻く。
糞。
俺は意外と器用な、その大きな手が好きだ。
あんたが聞いたら絶対怒るだろうけど、笑うと結構ガキっぽい顔とかさ。
それと、俺のすぐ近くで俺の名前呼ぶとき一瞬間をおくだろ?
アレも実はかなりのお気に入りだったりする。
初めて聞いたときは心臓が飛び跳ねて泡食って、つい「顔に似合わねえ」って笑っちまって謝ったっけ。
でも今じゃ聞こえなかったフリしてもう一回言わせてみたり。

・・・あー!
だからもう。
ほんと気分わりい。
最悪だ。
こんな日が来るなんて予定外もいいとこだっての。

うー。
つまり。
なんて言えばいいんだよ?
まんま言えば、あんたの所為で俺はこんなにイラつく羽目になっちまった。
癪の種はどこにでもいくつでも転がってて。
例えば理由の分からない不在とか。
誰かから来る分厚い手紙とか。
あんたが誰かと談笑なんてしてた日にゃ、俺はもう我慢ならなくて。
だいたいヤリてえ盛りのくせにその紳士面!
生身の人間の欲望があって当たり前なのに、あんたはそんな素振りも見せねえ。
でも口惜しいことに、俺は違う。
俺には自分を取り繕ってみせるなんて器用な真似はできねえ。
だからよけいに腹が立つのだ。
だってあんたは俺の気持ちにをとっくに汲んでてくれていい筈なんだぜ?
この怒りは間違いなく正当だ。
どっちにしても、もう長くは隠せねえのに変わりはねえけど。

あー。
・・・どう言えばいいんだよ?

糞。
だから!
よーするに!
おまえ二言目には「チキン、チキンライスでも食いに行くかそれともお子様ランチがいいか?」なんて俺をからかう事に休暇の大部分を費やしてるよな。
もしかして忘れちまったのか?
最初に言ったアレだよアレ。
それとも俺が「おめでとうございますサイファー・アルマシーさん合格です」なんつって律儀にお返事するまで待ってる気なのか?

・・・ぐずぐずすんな。
さっさと俺をあんたのものにしろよ。
俺だけのあんたになれよ。
「何処に行きてえんだ」なんて聞くんじゃねえよ。
誕生日?
だから何なんだよ。
どこへでも連れてけよ。
俺が欲しいなら欲しいって言え。
ああ違うか。
俺のほうがぜってーもの欲しそうな顔してるよな?
ばかやろ。
見てわかんねーのかよ?
いつもの洞察眼は何処やりやがった?
ふざけんのもいい加減にしてくんねえ?
なあ、頼むから。

だってさ。
好きなんだろう?
俺のことが。



返事の代わり、睨みつけたらサイファーが笑った。

「少なくともオレは、無理強いして嫌われるのが怖いと思うくらいにはおまえに惚れてんだぜ?」
「・・・・・」
「だからよう、姫さまのお許しがねえとな。騎士は姫君にかしづくもんだ」
「・・・何言ってんだ。誰が姫」

この間抜けなロマンチストめ。
とうとう堪忍袋の緒が切れた。
ああそうかよ、だったら俺がくれてやんなきゃな?!
顔が赤いのは怒ってるからだ笑うんじゃねえ馬鹿。

全然シトヤカじゃないキスを押しつけたら、そのまま熱い濁流に呑みこまれた。








・・・fin

* * *

サイゼル書いてみたかったので自分なりに満足です。
読んでくださった方に感謝を。
タイトルが全然浮かびませんでした・・・(泣

みつぐ
紳士で優しいサイファー・・・
そのかっこいいけど「らしくない」感じがゼルをじたばたさせるのですね。
もうゼルのじたばたぶりが可愛くて読んでる間中、笑みが(笑)

きっかけだけをしっかり作って、後は待ちの体勢を取るさくらさまのサイファーって実はすごく恋愛上手なのでは、と思わずにいられません
それが計算でなく、ゼルを心から想ってるからこその行動だというのがたまらなくツボです!

モスキ
可愛いゼル姫の一人称にシテヤラレマシタ(´Д`*)
言葉遣い悪かろーが淑やかじゃなかろーが、可愛いからゼル姫でイイのです。
大人なテクを持ち合わせているサイファーにもクラクラしましたvv
ああ、もうこの2人が大好きです!
とてもキュートなお話を読ませていただき、ありがとうございましたっ(^−^)


アヤ
姫さま扱いのゼルが、可愛いです〜w
もう、煽るだけ煽っちゃいながらゼルの行動を待っているサイファーにやられました。
す・・・素敵です、サイファー!
そして「シトヤカ」じゃないキスをするゼルがまた・・・。
最後まで「どきどき、にまにま」しながら読ませて頂きました。
可愛くて幸せなサイファーとゼルをご馳走様でしたw

DRY★ALE
「あー」だの「うー」だのうめいてるゼルがめちゃくちゃ可愛いです。
「おめでとうございます〜」のくだりとかもドツボですし!
この小説期間中のサイファーはゼルの反応を思う存分
楽しんだのでしょうねぇ。(笑)

柚葉
眼福小説堪能させて頂きました!
さくら姐さんのサイゼルが読めるなんて‥‥大感激です。
やっぱり姐さんのサイファーはカッコイイ‥‥。
こんなサイファーに愛されちゃうゼルは本当に幸せモノです。
焦れてるくせに駆け引き下手なゼルもいかにもゼルで、むしゃぶりつきたくなるような可愛らしさににんまりしちゃいます〜えへえへ(*´Д`*)

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