ANNIVERSARY LIBRARY

 My Gift To You 
  如月 アヤ
「おい、ゼル・・・少し付き合え」

食堂でゼルが雑談をしていると、背後からそう声をかけられた。
それはゼルに取って何よりも聞きなれた声と、馴染んだ気配で。
振り返らずともそれが誰であるかなんて分からないはずが無い。

「・・・・・・あんたさ、どうしてそうやっていつも俺の都合を無視するんだよ」

大げさに溜息を付いて、振り向きもせずにゼルはそう言った。
大体が、サイファーはいつもそうだ。
ゼルの都合など、考える事もしない。
一人でいる時ならば、まだいい。
ゼルにしてもサイファーに「付き合え」と言われてそれに従う事に否やは、ない。
だがこうやって他の仲間と一緒に居る時、話は別だ。
ゼルにはゼルの・・・・ゼルなりの付き合いと言うものだってある。
今だってそうだ。
間近に迫ったゼルの誕生日をどうしようか。何か欲しい物はないか、と。
アーヴァインやセルフィに聞かれていた所なのに。
それを、場の雰囲気すら考えずにサイファーは一方的に自分の都合を押し付けてくる。

「何で俺が付き合わなきゃなんねぇんだよ。俺は今、忙しいんだ。何処に行くか知らねぇけど、あんた一人で行けばいいだろ」
「煩せぇ。ぐだぐだ言ってねぇで付き合えってんだ」

返すサイファーの声には明らかな苛立ちが滲んでいる。
それが人に物を頼む時の態度か、と聞けるものなら聞いてみたい。
尤も、聞いても無駄だという事は知っている。
だから、敢て聞きはしない。
それでも・・・もう少し、もう少しでいいから。
重ねた年の分くらいは、この男も人に物を頼む時の方法を覚えた方がいい、と思ってしまう。
思うだけで結局は、結局ゼルはそれを許してしまうけれど。

「・・・悪い、ちっと行って来るわ」

ゼルは自分と、その背後に立つサイファーを交互に見たまま黙っているアーヴァインとセルフィにそう声をかけた。
今ここでサイファーに何かを言った所で、どのみち結果は見えている。
痺れを切らしたサイファーに力ずくで連れて行かれるのがオチだろう。
ならば食堂中の視線を集めるよりは・・・さっさと従った方が得策だ。
そう考えたゼルが立ち上がったのを見て取ったサイファーは無言で歩き出す。

「おい、こら!待てよ!」

ゼルはさっさと食堂を出て行く白い背中を慌てて追いかけた。




「・・・・・・・何処行くんだよ」
「行きゃ、分かる」
「あ、そ」

サイファーに押し込まれるようにして乗った車の中、ゼルはまた溜息を付いた。
一体、何がしたいのか。何処へ行くのか。
知りたいのはゼルにしてみれば当然で。
けれど、これ以上何を聞いてもサイファーから答えを引き出せない事は今までの経験から良く知っている。
そしてどちらとも無言のまま。
辿り着いたのは、崩れた家々が並ぶ・・・荒れ果てた、町。
何処にも人の気配は無く、ここが捨てられ、忘れ去られてしまった場所だとゼルにも分かった。
戦火の傷痕が残った家々の残骸の中、サイファーがようやく足を止めた。

「・・・サイファー?」
「ここだ」

ここだと言ったきり、黙り込んでしまったサイファーをゼルは伺い見た。

「なぁ、あんた・・・どうしたんだよ」

酷く苦しそうな、それでいて何かを懐かしむかのような不思議な表情をサイファーはしていた。

「やっと、見つけた」
「・・・何を?」
「俺が、産まれた家だ」

既に入り口とも、ただの穴とも判断し難い場所からサイファーは中へと入って行く。
ゼルもその後ろからサイファーを追いかける。
家の中も、外と同様の有様だった。
壊れた壁と埃が床一面に散乱している。
けれども確かに、ここに人は住んでいたのだろう。
僅かながらにも原型を留めている家具の類がそれを物語っている。


「・・・悪かったな、無理に付き合わせちまって」
「サイファー?」
「やっと、探し出したんだけどよ。流石に一人で来る気にはなれなくてな」
「分かるよ・・・あんたの言いたい事」

そう答えて、ゼルは傍らに立つサイファーを見やれば。
サイファーの翠の瞳が、何かを懐かしむかの様に細められていた。
おそらく・・・記憶には残っていないだろう、この場所を。
どう声をかけて良いのか分からなくなったゼルは、瓦礫の上に視線を彷徨わせる。
そして何かを見つけてそっと拾い上げた。
それは色褪せた一枚の古い写真。
そっと埃を吹き払えば、そこに写っていたのは。

「なぁ、これって・・・・・・」

写真の中央にはたおやかな女性が、その腕の中に幼子を抱き締めて。
嬉しそうに、そして誇らしそうに微笑んでいた。

「よく、こんなもん見つけたな」

ゼルの指からそっと、サイファーが写真を取り上げた。

「初めて見たぜ・・・俺の、母親ってやつを」
「・・・サイファー?」
「俺はよ、親なんていねぇもんだと思い込んで来たけどよ」
「でも・・・」
「ああ・・・・・・この写真見りゃ、俺にだって分かる」
「サイファー・・・この人、すごく嬉しそうだ」

長い時を経てたった一枚の写真が、真実を物語っている。
写真の中の笑顔が、そこに確かに存在した喜びを伝えて来る。
あなたを愛している。
既に語る言葉も持たないその人は、けれど確かにそう言っていた。
ふいにゼルの胸中にサイファーに対する愛おしさが込み上げて来る。
この想いを、どうやって伝えればいいのだろう。


「サイファー・・・この写真、俺にくれないか?」
「ゼル?」
「もうすぐ誕生日だし」
「それとこれが、何の関係があんだ。てめぇの誕生日にそんなもんくれてどうすんだ?」

誕生日の贈り物に、この写真が欲しい。
そう言ったゼルにサイファーは怪訝そうな瞳を向けた。

「てめぇの欲しいもんくれぇ、いくらだって用意してやるぜ?何でまた、こんなもんが欲しいんだ」
「そんなの、分かってる」
「だったら・・・」
「だって・・・あんたが・・・・・・・・・」

写真の中の笑顔こそが。
サイファーが愛されてこの世に生を受けた証。
だからこそどれ程高価な贈り物よりも、ゼルに取っては価値のあるもの。

「・・・駄目、か?」
「ったく・・・つまんねぇもん、欲しがりやがって」
 
しょうがねぇ、というサイファーの呟きと共に。
ゼルの手に写真が押し付けられた。


「サイファー」
「何だ」
「俺さ、凄ぇ・・・嬉しい」
「そんな写真一枚だぜ?」
「あんたにとったら、大事な物だろ?」
「たかが写真一枚じゃねぇか。そんなもんよりもてめぇの方が・・・」
「そんなんじゃないだろ?俺は、あんたが・・・愛されて産まれて来てくれた事が、嬉しい」

そっと伸ばされたゼルの指先が、サイファーの頬のラインを辿る。

「だから俺は今、こうしてあんたといる事が出来るんだ。最高のプレゼントだぜ?」
「チキンのくせに、生意気言うじゃねぇか・・・」

笑顔を向けたゼルに、サイファーはいつもの憎まれ口を返す。
けれど、その態度すらが愛しくて。

「生意気で悪かったな。でもさ、それでもあんたは俺を好きだって言ってくれるんだろ?」
「・・・・・・・当たり前じゃねぇか。てめぇの望んだ事、全部叶えてやりてぇ位には、好きだぜ」



あなたのとなりにいること。
あなたがとなりにいてくれること。
それがきっと、しあわせ。

― Happy Birthday Zell ―


ゼルへのプレゼントを思いつきませんでした。
そしてサイファーが何をあげるかも思いつきませんでした。
「産まれて来てくれてありがとう」は、誕生日的に逆の気もしますが(爆)。
好きな人が愛されて産まれて来てくれた、それはきっと幸せな事ですよね?
サイファーといる事が、ゼルの幸せ!と勝手に解釈させて頂きました。

みつぐ
読んだあと、心があったかくなるお話でした〜!
このプレゼントは贈ったサイファーも、受け取ったゼルも幸せですね。
こういう、お金に替えられないプレゼントを欲しがるゼルが大好きです!サイファーも、こんなもんでいいのかといいつつ、きっとめちゃくちゃ嬉しいに違いないですねv

モスキ
胸にジン…とくるイイお話です〜!
やっぱ、人間は愛し愛されなくちゃいけないですよね。
生まれた喜びと生まれてきてくれた喜びを、感じ合える人がいてこその『お誕生日おめでとう』だと思いました。
いつもながらの素敵ノベル、眼福でございました(*^−^*)

さくら
愛があればきっと、ほかに欲しいものなんて無いんですよね(ワタシが書くと臭いワ!何故?
サイファーとゼルのお互いを思うつよいきもちに、じんわりあたたかな感動を貰いました。
なんだかんだ言ってふたりともお互いにメロメロなのねv

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