奇妙だけれど…幸せな夢。(page1/3)

文/千歳純様・画/みつぐ様


潮の香りがする…草の匂いも…
ゼルはゆっくりと目を開けた。
視界には真っ青な空しか映らない。
自分が草原に寝転がっているコトに気付き、身を起こす。

「ゼル〜〜」

聞き覚えのある声に振り返ると…
セルフィが可愛くフリルの付いたドレス姿でこちらに走ってくる。
ゼルは手を振って見せた。

「セルフィ〜っ!オレ、ここ!!」

息を切らして駆け寄り、ゼルの腕を掴むセルフィ。

「な?…何か用か?そのかっこ……可愛いじゃん」

「用って…寝惚けてる?」

くすくすと笑いながら、なおもゼルの腕を引っ張り…
とうとうたち上がらされた。

「…痛ぇってっ!!ひっぱんな…………ちょ…なんだよっ!!このカッコっ!!!」

ゼルが叫ぶのも無理は無く…体を覆い尽くしているのは、白く長い布。
サテンの生地を覆う…オーガンジーが、身動きする度微かな音を立てる。

首には真珠のネックレス。
手にはサテンの手袋と…ブーケにしか見えない白い百合の束。
そして、セルフィが背伸びして頭の後ろになっていた…ヴェールを顔に掛ける。

「…今はまだ、顔隠してないとね〜」

一体自分の身に…何が起こったと言うのか…


連れて来られたのは、やはり教会。
ここで誰が待っていると言うのだろう。
ゼルは恐ろしくなって、ドアの前で立ち止まり…セルフィに言った。

「なぁ…セルフィ…オレ…ヤだ…」

「…は?…何言うてんの、今更」

苦笑しながら、ゼルの……ウェディングドレスに可笑しな所がないか、見てくれる。

「あ、介添え人だよ?」

セルフィが指差す方を見ると、シド先生が燕尾服を着て立っていた。
優しい笑顔で、目には薄っすら涙を溜めて。

「ゼル……幸せになるんですよ…」

「………は…あ」

頭を掻き毟って叫び出したい気持ちを、ゼルはなんとか理性で止めた。


パイプオルガンの荘厳な音色。
真っ直ぐに敷かれた赤い絨毯。ゼルは転ばぬように…足元を見ていた。
所々、絨毯の色が微妙に変化している。
それは、高い天井から柔らかく陽光が差し…ステンドグラスを写している所為。

左側を歩いているシド先生。
ゼルは先生の腕に掴まって…ヒールで時折よろけそうな体を支えられていた。

練習した覚えも無いのに、片足ずつ揃えまた一歩を踏み出す。
ゆっくり、ゆっくりと……

不意に、シド先生が小さな声で囁いた。

「…ほら、ゼル…彼ですよ…」

ゼルが前方を見るが…祭壇からの光が強くて、顔を判別できない。
しかし背が高く、白いタキシード姿なのは辛うじて分かった。

ゼルの鼓動が急に早くなる。
(彼って……まさか………?)
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