Love In the First Degree(20)


20

「暴れんなって。何も命まで取ろうってんじゃないんだからよ。」

委員長はしきりに唇を舐めながら、ゼルの腹に馬乗りに跨がった。
「ちょっと俺達と遊んでくれりゃいいんだよ。サイファーとは楽しんだっつうじゃんか。え?」
ぐいぐいと内臓を圧迫される息苦しさに、大きく喘ぐ。
逃れようにも、床に押し付けられた体は指一本動かせない。
唯一自由のきく両眼にありったけの力を込めて、ゼルは委員長の顔を睨みつける。
すると、委員長は呆れたように鼻を鳴らした。

「おいおい、つれないツラだな。俺らとやんのは不満かよ。」
「サイファーじゃねえと嫌だってか。」
頭の上から、委員長とは別の声が野次を飛ばす。
「冗談だろ。お前、サイファーに本気で相手されてると思ってんの?」
「バッカじゃねえ? あの人が野郎相手に本気になるかよ。なあ?」
どっと笑いの渦がわき起こった。
委員長はぐいとゼルの前髪を掴み、ゆらゆらと揺さぶった。
「大体よ、結構悪くねえから試してみろって言ったのはサイファーだぜ?」
「‥‥!」

思わず目を見張ると、委員長は勿体ぶった口調でぬらりと笑った。
「だからよ。だったら試してみようぜ、って話なワケ。」
解ったか?と鼻先で顎をしゃくって、委員長はようやく腹から降りた。
それを合図に、四方八方から伸びてきた腕が慌ただしく上着をはだけ、下衣を引き降ろす。
アンダーシャツが無惨に引きちぎられる音に、ゼルは蒼白になって遮二無二身を捩ろうとしたが無駄だった。
全裸に剥かれ、両膝をがっちりと開脚状態に固定されて、股関節がきしみを上げる。

「ちゃんと押さえてろよ。」
「解ってるって。」
がちゃがちゃとバックルを外しながら、委員長は苛立たしげに露な局部を覗き込んだ。
ゼルは全身を強張らせ、なおも抵抗しようとした。
だが、僅かでも身を浮かせようとすると、腕や肩、足首を抑えつけている数多の指に力がこもり、皮膚に爪が食い込む。
割れ鐘のように頭が痛み、わんわんと耳鳴りがした。
四方から注がれるぎらついた視線が、まるで熱砂のようにじりじりと肌を炙る。
怒りと羞恥とパニックとで目の前が真っ白になり、ゼルは思わず固く瞼を伏せた。

下半身の方で、上擦った声がこそこそと囁く。
「おい、マジで入んのかよ?」
「さすがに拡げなきゃ駄目だろ。」
「ち、面倒くせえな。」
誰かの骨張った手が尻朶を鷲掴みに押し拡げ、唾液で湿したらしい指がひやりとそこをまさぐる。
震え上がった次の瞬間、突然指は菊門に突き入れられた。
ゼルは悲鳴を上げたが、勿論声にはならない。
ぐっしょりと唾液を吸った布の塊に押しつぶされた舌が虚しく痙攣し、息苦しさで気が遠くなる。

「へえ。中は結構それっぽいぜ。」
ぐりぐりと中を探りながら、擦れた声が言った。
「マジか?」
「入れてみろって、ほら。」
突き立てられた指にぐいと腸壁を横に引き延ばされ、疝痛が走った。
躊躇なく差し込まれ、二本になった指が、滅茶苦茶に中を掻きむしって暴れ回る。
断続的に襲い掛かる衝撃と痛みに、ゼルは大きく胸板を上下させ喘いだ。
「うわ、なんかすげえ‥‥。」
「けっこうエロいじゃん。ひくついてるぜ。」
「そろそろいいんじゃねえか。」
「だな。」

ゼルはなおも瞼を伏せたまま、絶望的な諦念に身を委ねるしかなかった。
抵抗しても、逃れられない。
ならばせめて、間違いなく訪れるであろう激痛に耐えることにのみ集中するしかない。
両膝を高く掲げられ、じくじくと熱を帯びた箇所に固いモノがあてがわれる。
自由のきかない四肢を懸命に突っ張り、ゼルは口の中の布切れを千切れんばかりに噛みしめた。
強引に押し込まれる肉棒に、腸壁は限界まで引き延ばされ、切り裂かれるような痛みが脊髄を貫く。

「すげえ‥‥マジ入った。」
ごくり、と生唾を呑み込む気配がした。
四肢をおさえつけている数多の手は、いずれもじっとりと熱を帯びて、汗ばんでいる。
欲情にまみれた視線は、一様にそこに注がれているのに違いない。
ゼルは必死で呼吸を整え、意識をそらそうとした。
だが、ねじ込まれた異物はゼルの反応になど構うことなく、いきなり前後に動き始めた。
ズキズキと抉られるような痛みが内臓で弾け、生理的な涙が滲む。
肌の上に交錯する、飢えた犬のような荒い息遣い。
体のあちこちを這い回る、ぬらぬらとした指。
おぞましさと嫌悪感に鳥肌が立ち、とめどなく涙は零れ続けた。

「こいつ、泣いてるぜ。」
「痛えんじゃねえ? 可哀相にな。」
「少し擦ってやれよ。」
からかい混じりの声に続いて、誰かの手が陰茎を掴む。
霞んだ意識の中で、ゼルは喉をひきつらせた。
──やめて、くれ。
与えられるのは、痛みだけで充分だ。
苦痛だけなら、耐えられる。
けれど、苦痛以外のものを感じてしまったら、オレは──。

「お。勃ってきた。」
「ケツに突っ込まれてんのに、キモチイイのか?」
「ヘンタイだなこいつ。」
口々に揶揄を飛ばし男たちがげらげらと笑い合うのを、ゼルは茫然と聞いた。
もう、何も考えられなかった。
感情と理性が、この不条理な現実についていけなかった。
我が身と我が身に起こっている事が、まるで他人事のような気がする。
目の前には、真っ白い空虚だけが、無限に広がっている。
そこにはもはや、何の感情も存在していなかった。
だらだらと平行線をたどる痛みと快感以外、何も感じることができない。

股間を割っていた男が俄にその動きを加速させ、闇雲に下半身を叩きつけてきた。
がくがくと襲い掛かる振動に内臓が押し上げられて、胃の辺りがむかついた。
やがて男は、短い呻きを洩らしたかと思うと、血が滲むほどに強く膝頭に爪を立てた。
「‥‥やべえ。出ちまった。」
上擦った声が呟き、またもや下品な笑い声が飛び交う。
「おい、終わったんなら早く代われよ。」
「なんだよ、次は俺だろ。」
「んじゃ、口も使わせてやろうぜ。」
「声出されたら面倒だぞ。」
「ダイジョブだって、もう声なんか出やしねえよ。」
言うや否や、誰かが胸板に跨がった。
前髪を掴んで首を引き起こされ、詰め込まれていた布切れを引っ張りだされたかと思うと、息つく暇もなくそそり立つ肉塊を押し込められる。

生臭いような青臭いような臭気がどっと流れ込み、むせ返りそうになった。
男は前髪を掴んだまま、荒い呼吸で動きだした。
舌の上を行き来する臭気が苦い唾液と混じり合い、汚泥のような味がして吐き気がした。
摩擦で切れたものか、乾いた唇が引きつれてひりひりと痛む。
「美味いだろ? もっと舌使えよ。」
卑猥に喘ぎながら、男が笑った。
一方、肛門には新たな肉塊が捩じ込まれ、規則的な律動が再び下腹を突き上げ始めた。
先ほどよりも強引に押し拡げられたせいで入り口の皮膚が裂け、焼け火箸を差し込まれるような疝痛が脳天を突き抜ける。
流れ出た血の色に昂ったようで、男は動きを緩めるどころかますます加速した。
同時に周囲の喧噪も、よりその狂気じみた色合いを濃くしていく。

肌という肌を撫で回され、吸われ、叩かれ、無数の傷が刻み込まれていった。
嬲られ続ける陰茎が、そこだけが切り離された個の器官であるかのように、勝手に昂り、膨れ、蜜を吐く。
射精が伴う生理的な到達感はかろうじて感じるものの、それが果たして快感なのか、苦痛なのかも解らなかった。
ただ鈍い感覚だけが、尾てい骨の底でどろどろと渦を巻いていた。

──早く、終わって欲しい。
口腔に生臭い粘液をぶちまけられ、むせ返りながら、ただそれだけを考えた。
続いて押し込まれたまた別の肉塊が、頬の内側を擦り上顎を叩く。
それとも、終わらないのか。これは永遠なのか。
──それなら、それでも。
もうどうにでも、なるようになれ、とふと思った。

どうせ二度と、サイファーには口もきいてもらえない。
顔すらまともに見てはもらえないだろう。
その原因を招いたのは、自分だ。
辛うじて保たれていたか細い希望の糸を断ち切ってしまったのは、まぎれもなくオレ自身なんだから。
それでも好きだ、なんて告げる資格は、オレにはないんだ。

そもそもすべては、無節操で軽率な、この体のせいだ。
サイファーへの気持ちひとつ守り通せなかった、こんな穢らわしい肉体は今さら何の意味もないし、用もない。
こんな状況でも刺激さえあれば生理的に反応してしまう、こんな呪わしいカラダなど。
もう、どうなったって構いやしない。
いっそのこと──このまま、壊してくれたって、いい。

男達は入れ替わり立ち代わり、荒い呼吸でのしかかってくる。
その重みに無防備に押しつぶされ、揺さぶられ、犯され続けながら。
ゼルはぼんやりと意識を手放し、そのまま深い闇の中へと堕ちていった。

To be continued.
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